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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)6008号 判決

原告 足原英晴

右訴訟代理人弁護士 東垣内清

同 石川元也

同 山田幸彦

同 海川道郎

同 村山真

同 大川真郎

同 松岡康毅

同 佐々木猛也

同 吉岡良治

同 鈴木康隆

同 桐山剛

同 平山正和

同 大江洋一

同 西枝攻

同 豊川義明

被告 全電通大阪東支部こと 全国電気通信労働組合大阪東支部

右代表者執行委員長 定金孝年

右訴訟代理人弁護士 上坂明

同 浦功

同 藤田剛

同 丸山哲男

同 岡田義雄

同 松本剛

同 石丸悌司

同 柴田信夫

同 北村哲男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙記載内容の謝罪文を、たて二七センチメートル、よこ三八センチメートルの白紙に墨書し、捺印して交付せよ。

2  被告は、被告発行にかかる機関紙「全電通大阪東にゆうす」の本判決確定後最初に発行する号の第一面最上段のたて九・八センチメートル、よこ一〇センチメートルの枠内に、別紙記載内容の謝罪文を、表題の「謝罪文」を一号ゴシック体の、「全電通大阪東支部執行委員長定金孝年」及び名宛人「足原英晴殿」を二号ゴシック体の、その余の文字を九ポイントの各活字を用いて掲載し、右機関紙を被告所属組合員に一部宛配布せよ。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  本案前の答弁

1  原告の訴えを却下する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

《以下事実省略》

理由

一  被告の当事者能力

まず、被告に本件訴の被告となり得る当事者能力があるか否かについて判断する。

1  全電通(全国電気通信労働組合)は、全国電気通信産業労働者をもって組織され、その組合員の労働条件の維持改善等を目的とした労働組合であって、中央組織として中央本部、地方組織として地方本部、支部及び分会を置いていること、被告は、全電通の地方組織であって、肩書地に事務所を置いていること、以上の事実は当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、全電通は、昭和五〇年当時において、その組合員数は約二八万名であり、その中央本部を東京都千代田区駿河台に置き、全国に一一の地方本部を、七九の地方支部を置いている外、地方支部の下に多数の分会を置いていること、地方本部は、中央本部に直結して、その統括する地域の組織を指導統制するものとされ(乙第一号証の規約一〇条)、地方支部は地方本部に直結して、管掌する組合員を指導統制するものとされ(同一一条)、分会は、地方支部に直結し職場活動を推進することを任務とした職場組織とされていること(同一一条)、全電通は、法人格を有するものとされ(前記規約二条)、その旨の登記もされているが、右規約上、地方本部、地方支部、分会は、いずれも独立の法人格を有するものとはされておらず、法人登記もなされていないこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

2  ところで、我が民訴法は、法人に非ざる社団でも、代表者又は管理人の定めのあるものは、その名において訴えられる当事者能力があるところ(民訴法四六条)、右にいわゆる法人に非ざる社団とは、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定しているものと解すべきである(最高裁判所昭和三九年一〇月一五日判決・民集一八巻八号一六七一頁、同昭和四二年一〇月一九日判決・民集二一巻八号二〇七八頁各参照。)

これを本件についてみるに、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告は、全電通近畿地方本部に直結する地方支部の一つであって、全電通の組合員のうち大阪東地区管理部及び管内の電話局・電報局・電報電話局、阪南電話中継所、富田林電話中継所、八尾統制無線中継所に属する組合員(昭和五一年一一月当時において約二四五〇名)をもって構成され、構成員の加入、脱退にかかわらず存続し、その管掌する組合員を指導統制していること、被告は、その組織の運営に関する規定として、乙第二号証の全国電気通信労働組合規約大阪東支部運営規程を設けていること、そして、右規程により、被告の議決機関として支部大会及び支部委員会が、また、執行機関として支部執行委員会がそれぞれ設けられており、執行委員長は被告を代表してその業務を統括するものとされていること、そして、議決機関である支部大会においては、被告の活動方針、予算の決定、決算の承認、運営規程の改正を決定し、支部大会または委員会においては、予算の追加、補正、他団体への加入または脱退、細則諸規程の改正、労働協約の承認、臨時組合費の徴収、資産の処分、組合員の表彰、組合員に対する警告、権利停止の処分及び除名に関する申請を、それぞれ多数決原理によって決議するとされていること、すなわち、支部大会は、代議員の三分の二以上の出席で成立し、議事は別に定められた場合を除き、出席代議員の過半数によってきめ、可否同数のときは、議長がきめるとされ、支部委員会は、支部委員の三分の二以上の出席によって成立し、議事は出席委員の過半数によってきめ、可否同数のときは、議長がきめる、とされていること、次に、被告の経費は、支部費(臨時徴収を含む)、中央本部交付金、近畿地方本部還元金、事業収入金、寄付金等によって賄われ、被告の財産管理、収入、支出は執行委員会の責において行なうものとされ、その会計年度は、毎年九月一日より翌年八月三一日までとされていること、被告は、後記の通り、その支部大会の決議により、原告を無期限の権利停止処分にしていること、以上の事実が認められ、右に反する証拠はない。

しかして右認定の事実によれば、被告は、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変動にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、支部大会、委員会等の運営、財産の管理等、団体としての主要な点が確定しているものというべきであるから、被告は、法人に非ざる社団として、民事訴訟法四六条により、被告としての当事者能力を有するものというべきである。

3  もっとも、被告は、種々の事情をあげて、被告には本件訴の被告となり得る当事者能力がないと主張しているところ、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、被告は、全電通の地方組織である近畿地方本部の下部地方組織であって、前記乙第二号証の被告の運営規程は、全電通の規約及び地方組織運営規程の基準に定めるところによることとされていること、被告の議決機関及び執行機関は全電通の議決機関及び執行機関を助けるために置かれていること(乙第一号証の規約七条二項参照)、被告の活動方針は、全電通の全国大会及び中央委員会の決議に反してはならないこと、被告の組合専従役員及び書記の賃金は全電通が支出していること、被告の組合員は組合費をいったん近畿地方本部に上納すること、被告の経費は、その約六割余が全電通からの中央本部交付金及び近畿地方本部還元金によって賄われていること、被告の会計は全電通の会計監査を受けること、被告に属する組合員資格の得喪は直接全電通との間で生じ、被告の組合員たる資格は、それによって自動的に決せられること、被告は組合員の除名については中央本部に対する上申ができるにすぎず、自らはその決議をなしえないこと、被告の組合専従役員は必ずしも被告の所轄事業所の組合員とは限らないこと、全電通は、被告を含め組織全体に対する統制権及び指令権を有していること、全電通とその使用者たる日本電信電話公社との間で団体交渉の方式に関する協定がなされていること、全電通の下部組織の中にはかつて法人登記を有するものも存在したところ、全電通の単一組織としての機能を強化するため、下部組織の再編をして右法人登記を解消し、相互の機関の関係、活動方針、活動方式、人事、会計、規定の名称・方式・内容等、あらゆる面から全電通に対する地方組織の従属性を強化し、地方組織としての独自の活動範囲を限定してきており、またその努力も続けられていることが認められる。しかし、右の諸事実があるからといって、前記2に認定した諸事実がある以上、これをもって、被告が民訴法四六条にいわゆる法人に非ざる社団であるとの前記2の認定を覆すことはできないし、その他被告主張の諸事実があるからといって、右認定を覆すことはできないものというべきである。よって、被告は、本訴の被告となりうる当事者能力があるものというべきであるから、右当事者能力がないとの被告の主張は失当である。

二  次に、原告は、昭和四一年四月一日、日本電信電話公社にその職員として入社し、大阪生野電報電話局試験課に所属し、昭和四五年七月頃から組織変更により同局保全課第二保全係に所属し、加入者申告の応対、障害修理の手配等の業務に従事してきた労働者であること、原告は、昭和四一年四月七日頃、全電通に加入し、被告の生野分会(組合員数約一七〇名)に所属し、同年七月頃から昭和四三年七月頃まで、同分会職場委員会委員、同年七月頃から昭和四六年九月頃まで、同分会青年会議(通称職場青年会議)の青年委員であったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

三  次に、全電通においては、組合員の制裁について、警告、権利停止及び除名の三種類を定め、警告と権利停止については支部以上の議決機関の決議を経ることとされ、除名については全国大会の決議を経ることとされているところ(規約五一条、五二条、一八条)、被告は、昭和四六年一〇月二二日開催の第一回支部委員会において、原告に対し、原告が自己批判するまでの間無期限に組合員としての権利を停止する旨の本件統制処分の決議をし、当時の被告の執行委員長鷲谷憲は、翌二三日、本件統制処分を公示したこと、原告は、それを不服として、同年一一月二二日、全電通の近畿地方本部に右処分についての異議の申立てをしたが、同地方本部は、昭和四七年二月一四日、それを却下したこと、原告は、次いで、全電通の中央本部に対し右処分についての異議の申立てをしたが、同中央本部は、それについての結論を出さなかったこと、原告は、同年七月、大阪地方裁判所に右統制処分の効力停止仮処分の申請(同庁昭和四七年(ヨ)第一八八五号)をしたこと、被告は、右申請の審理中である同年一一月一九日、原告に対し同年同月一六日付をもって停止中の権利を回復する旨の通知をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

四  そこで次に、被告が原告に対し、無期限に組合員としての権利を停止した本件統制処分が有効であるか否かについて判断する。

1  社会党一党支持決定、水口宏三、佐々木静子両候補の推薦決定について

その日時の点を除き、全電通がかねて日本社会党一党を支持する旨の決定をしたこと、全電通は、右決定に基づき、昭和四六年六月二七日施行の参議院議員選挙に際して、同年三月開催の第五七回中央委員会において、日本社会党所属の全国区候補者水口宏三を、同年二月開催の第二回近畿地方委員会において、同党所属の地方区候補者佐々木静子を、それぞれ推薦支持することを決定したこと、以上の事実については当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によると、被告支部では、全電通の前記決定に基づき、右水口宏三候補及び佐々木静子候補を当選させるべく、組織をあげてその選挙運動に取組むことにしたこと、以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。

ところで、原告は、全電通の前記日本社会党一党支持の決定及び水口宏三、佐々木静子両候補の支持決定は、いずれも労働組合としてなすことのできない性質のものであり、かつ、個々の組合員の政治的信条や、政治活動の自由を侵害し、憲法一一条、一四条、一九条、二一条、労組法三条、四七条に違反するものであって、無効であると主張している。

しかしながら、元来、労働組合は、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合体」であり(労組法二条)、憲法及び労組法が、このような労働組合の結成を保障しているのは社会的経済的弱者である個個の労働者をして、その強者である使用者との交渉において、対等の立場に立たせることにより、労働者の地位を向上させることを目的としたものであるところ、現実の政治経済社会機構のもとにおいて、労働者がその経済的地位の向上を図るにあたっては、単に対使用者との交渉においてのみこれを求めても、十分にはその目的を達成することができず、労働組合が右の目的をより十分に達成するための手段として、その目的達成に必要な政治活動や社会活動を行なうことを妨げられるものではないと解すべきである。従って、労働組合が、特定の政党を支持する旨の決定をし、また、特定の公職の選挙にあたり、その組合員の生活環境の改善その他生活向上を図るうえに役立たしめるため、その利益代表を議会に送り込むための選挙活動をすること、そしてその一方策として、いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げてその選挙運動を推進することは許されるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四三年一二月四日判決・刑集二二巻一三号一四二五頁(特に同一四三〇頁、一四三一頁)、最高裁判所昭和五〇年一一月二八日判決・民集二九巻一〇号一六九八頁各参照)。ただ、一般に、政治的活動は、一定の政治的思想、見解、判断等に結びついて行われるものであり、労働組合の政治的活動の基礎にある政治的思想、見解、判断等は、必ずしも個々の組合員のそれと一致するものではないから、もともと団体構成員の多数決に従って政治的行動をすることを予定して結成された政治団体とは異なる労働組合としては、その多数決による政治的活動に対して、これと異なる政治的思想、見解、判断等をもつ個個の組合員の協力を義務づけることは、原則として許されないと解すべきである。けだし、かかる義務を一般的に認めることは、組合員の個人としての政治的自由、特に自己の意に反して一定の政治的態度や行動をとることを強制されない自由を侵害することになるからである(前記最高裁判所昭和五〇年一一月二八日判決参照)。

従って、全電通が、前記の如く、社会党一党の支持を決定し、昭和四六年六月二七日施行の参議院議員選挙に際し、社会党所属の水口宏三、佐々木静子両候補の推薦支持を決定した右各決定自体は、憲法一一条、一四条、一九条、二一条、労組法三条、四七条に違反するものではなく、有効であるというべきである(但し、その拘束力の及ぶ範囲について限界のあることは勿論である)。よって、右各決定が、憲法、労組法に違反して無効であるとの原告の主張は失当である。

2  「赤旗」の号外や後援会のビラの販売・配付等について

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  原告は、前述の通り、昭和四六年頃、生野電報電話局に勤務し、全電通の被告支部生野分会員であったが、その政治的信条を異にしていたから、昭和四六年六月二七日施行の参議院議員選挙において、前記全電通の決定に従わず、日本共産党公認の全国区候補須藤五郎、地方区候補三谷秀治の両候補を当選させるための選挙運動を積極的に推進しようと考え、昭和四六年五月頃、生野電報電話局で働らくものの有志約一〇名位で、「須藤五郎、三谷秀治電通生野、巽職場後援会」(右後援会内部ではタンポポとも称していた。)を結成し、原告は、その代表者である会長となったこと、

(二)  右後援会は、地域の後援会、或いは、電通の他の職場の後援会等のニュースの交換、連絡のとりあい、日本共産党の機関紙「赤旗」の号外や法定ビラなどの配布、後援会の拡大、後援会ニュースの作成、得票活動、選挙戦の意義・政策の学習等を行うことにしていたこと、

(三)  原告は、昭和四六年五月下旬頃の午前八時過頃(勤務時間外)、生野電報電話局の電力課事務室において、当時、同局電力課に勤務していた訴外大山雅敬(その後野村雅敬に改姓)に対し、前記参議院議員選挙の共産党公認の候補者の氏名、略歴等を記載したパンフレット等二冊を、「前記参議院議員選挙の候補者全部の一覧表であるから買わないか。」などといって、これを代金六〇円で売ったこと、ところが、右大山は、その後、右原告から買ったパンフレット等が参議員議員候補者全部の一覧表ではなく、日本共産党公認の候補者の氏名、略歴等を記載したものであったことに気付き、その頃、これを被告の生野分会長中井秀礼(以下単に中井分会長という)に渡したこと、

(四)  また、原告は、昭和四六年六月上旬頃、生野電報電話局の門前で、「赤旗」の号外や、前記参議院議員選挙における日本共産党公認の須藤五郎及び三谷秀治両候補の支持を訴えるビラ等を、全電通の一般組合員に配付した外、右生野電報電話局の電報課の休憩室や待機室、営業課の休憩室、保全課第二保全係の休憩室等に置いて、全電通の一般組合員がこれを手に取って見ることのできるようにした外、前記須藤、三谷両候補の後援会ニュースをその後援会員に配布したこと、

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

3  生野会館の使用申込及び後援会ニュースの配布について

(一)  原告が昭和四六年六月七日生野会館にその使用申込をしたこと、その際、その使用目的を「労組会議」としたことは当事者間に争いがないところ、被告は、原告が右生野会館の使用目的を「労組会議」としたことは、あたかも全電通主催の集会である様に装って右申込をしたものであると主張しているが、右被告の主張事実に副う《証拠省略》はたやすく信用できず、他に右事実を認め得る証拠はない。却って、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、原告は、前述の通り、「須藤五郎、三谷秀治電通生野、巽職場後援会」(内部では「タンポポ」とも呼ばれていた。)の代表者であったところ、右後援会の総会が、同年六月一一日、大阪市立生野会館で開かれることとなったので、原告は、同月七日、右生野会館に、その使用の申込をしたこと、そして、その際、右使用目的を「労組会議」としたが、右は、当時、選挙運動のために生野会館を使用することが許されなかったところから、便宜その使用目的を、右の如く「労組会議」としたに過ぎないのであって、これについて格別他意があったのではないこと、なお、右使用申込は、原告の個人名でなされているから、その使用目的を「労組会議」としたからといって、そのことから直ちに、被告主張の如くそれが全電通主催の総会を意味するものとは到底認め難いこと、以上の事実が認められる。

してみれば、原告が全電通主催の集会であるかの如くに装って生野会館の申込をしたとの被告の主張は失当である。

(二)  次に、被告は、原告は昭和四六年六月九日タンポポ(須藤五郎、三谷秀治電通生野、巽職場後援会)に所属する者と共に職場内で多数の全電通の一般組合員に対し、前記後援会の総会への参加を呼びかけた内容の後援会ニュースを多数配布したと主張しているが、右被告の主張事実に副う《証拠省略》はたやすく信用できず、他に右被告の主張事実を認め得る証拠はない。

却って、《証拠省略》によると、原告は、昭和四六年六月九日、その職場で前掲「須藤五郎、三谷秀治電通生野、巽職場後援会」の後援会員(当時約四〇名)に対し、同月一一日に開催予定の右後援会の総会に関する記事等を掲載した後援会ニュース(乙第二一号証)を配付したこと、しかし、右後援会以外の一般組合員に無差別にこれを多数配布したことはないこと、以上の事実が認められる。

してみれば、右後援会ニュースを全電通の一般組合員に対し多数配布したとの被告の主張は失当である。

4  中井分会長の言動と共産党市会議員の抗議及び大阪民主新報の記事について

昭和四六年六月一四日、日本共産党から若林大阪市会議員外二名の者が、被告支部の生野分会に抗議に赴いたことは当事者間に争いがなく、右事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  被告支部生野分会長の中井秀礼(中井分会長)は、前記2に認定の如く、原告が日本共産党公認の須藤五郎、三谷秀治両候補の支持を訴えるビラや、右両候補の後援会ニュースを配布したり、日本共産党公認の候補者の氏名、略歴等を記載したパンフレットを、全電通の一般組合員大山雅敬に売ったことを知り、原告の右の如き行為は、被告の組織に混乱が生ずるものと考え、このことについて原告に厳重な注意を与えようと考えたこと、

(二)  (イ)そこで、右中井分会長は、昭和四六年六月一〇日午前九時過ぎ頃、生野電報電話局保全課第二保全係の原告の席に赴き、原告に対し、前記後援会ニュース(乙第二一号証の写)を示しながら、「お前、これをまいたろう。」「なめたことをするな。」等と申し向けて、原告が右後援会ニュース等を配布したことについて、厳重に抗議しかつ注意をしたこと、(ロ)これに対し、原告は、「思想信条の自由があるから、別になめたことはしていない。」との趣旨のことを言って応酬し、原告と中井分会長とは、右のことに関して激しく議論をしたこと、(ハ)そのうち、中井分会長は、興奮状態となって、いきなり手で原告の胸倉ないし左えりを掴み、原告に対して、「分会の事務所まで来い。」と申し向けたところ、原告はこれを手で払いのけるなどし、直ちには、右事務所に行かなかったこと、(ニ)その後暫く経って、原告は、右中井分会長の要求に従い、生野分会の事務所に赴き、前記後援会ニュース等の配布問題について話し合ったところ、その際も、中井分会長は、原告に対し、「全電通の社会党支持及び水口宏三、佐々木静子両候補推薦の各決定は守られなければならない。」とか、「全電通の組合員であるならば、まず全電通の決定を守れ。」「組織内の決定は思想信条をのりこえたところにある。」等という趣旨のことを言ったのに対し、原告は、思想信条の自由を主張し、自己の行為の正当性を主張して譲らず、話し合いは平行線をたどったこと、なお、原告は、その際、右の問題を、職場集会ないし職場委員会で討議しようと提案したが、中井分会長は既に決っていることであるとして、これを拒否したこと、

(三)  その後、原告は、その翌日の六月一一日に開催された「須藤五郎、三谷秀治電通生野、巽職場後援会」の総会で、他の後援会員をして、前記(二)の原告と中井分会長とのやりとりを報告させ、さらに、「分会長が後援会長におどし」などの見出しをつけ、原告と中井分会長との前記やりとり及び原告ら後援会員の見解を記載した甲第三〇号証の後援会ニュースを作成して、これを右後援会員らに配布したこと、

(四)  次に、その後、原告と右中井分会長とのやりとりを知った日本共産党では、昭和四六年六月一四日、若林大阪市会議員外二名の者が、被告支部の生野分会に赴き、中井分会長に対し、「暴力をもって組合員の思想信条の自由を犯すのか。」「原告に暴力を使ったことを認めよ。」という趣旨のことを言って、中井分会長が原告に対してとった態度につき厳重な抗議をしたこと、

(五)  さらに、日本共産党大阪府委員会は、昭和四六年六月一七日、同日付機関紙「大阪民主新報」(甲第四号証)に、「後援会ニュースくばるな」「胸ぐらつかんで強要」「組合内では自由なし」等の見出しをつけ、前記六月一〇日の原告と中井分会長との後援会ニュースの配布に関するやりとり等についての記事を掲載し、これを生野電報電話局の門前やその他のところにおいて、全電通の一般組合員らに配布したこと、

(六)  その後昭和四六年六月二〇日頃から数回に亘り、所轄警察署の警察官が、被告支部の生野分会事務所を訪れ、前記「大阪民主新報」に掲載された中井分会長の原告に対する暴行事件について、中井分会長らに、その事情を聴取したり、関係書類の提出を求めるなどしたこと、

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

5  全電通の規約

前掲乙第一号証によれば、全電通規約五一条一項は、「組合員でつぎの各号の一に該当するものは制裁をうける。」と定め、その一号として、「組合の綱領、規約、議決機関の決議及び指令に違反したとき。」と定め、二号として、「組合の名誉を著しく汚したとき。」と定め、三号として、「組合の秩序をみだしたとき。」と定めていることが認められ、

右認定に反する証拠はない。

6  ところで、

(一)  被告は、原告の前記2に認定の行為は、全電通の社会党一党支持の決定、及び、昭和四六年六月施行の参議院議員選挙において、水口宏三、佐々木静子両候補を推薦する旨の決定に違反するから、全電通規約五一条一項一号に該当すると主張している。

成程、前述の通り、労働組合は、その組合員の経済的地位を向上させるとの目的をより十分に達成するための政治活動の一環として、特定の政党を支持し、或いは特定の公職の選挙において、特定候補者を推薦する旨の各決定をし、その当選をはかるべく選挙活動をすることは許されるけれども、他方、政治団体とは異る労働組合としては、その多数決による政治活動に対しては、これと異る政治的思想、見解、判断等をもつ個々の組合員の協力を義務づけることは、原則として許されないから、全電通が日本社会党一党支持を決定し、また、昭和四六年六月二七日施行の参議院議員選挙について、水口宏三及び佐々木静子両候補の推薦を決定しても、これと政治的立場を異にする原告(原告が右政治的立場を異にすることは弁論の全趣旨から明らかである。)らに対し、右全電通の決定を守り、その政治的活動に協力するよう義務づけることは、原則として許されないというべきである。従って、全電通の前記各決定に拘らず、原告が前記2に認定の如き「赤旗」の号外や、その他のビラ、パンフレット等を全電通の一般組合員に配布し、或いは、売却することも、それが、他の一般組合員において、全電通の決定に従い、その推薦する水口宏三、佐々木静子両候補支持のビラの配布中とか、右両候補を支持するための集会を開いている際などのように、現実に全電通の決定に従った選挙活動行為を行なっている際になされたとか、その他その手段方法自体が不適当である等の特段の事情のない限り、許されるものというべきところ、本件においては、原告は、前述の通り、「赤旗」の号外や日本共産党の候補者支持のビラを、その勤務先の生野電報電話局の門前で配布したり、その職場内でも単に休憩室等に置いていたに過ぎないのであるし、また、前記後援会ニュースも一般の組合員に配布したのではなく特定の後援会員に配布したに過ぎないし、さらに日本共産党公認の候補者のパンフレットも、不特定多数の一般組合員に有償配布したのではないから、右の如き程度の行為は、その政治的自由の点から許されるべきものというべきであって、これを全電通規約五一条一項一号に該るとして、統制処分の対象とすることは許されないものというべきである。

また、被告は、原告の前記2に認定の行為は、全電通の組合活動としての参議院議員選挙活動を著しく妨害し、かつ、全電通の組合員の間に混乱をもたらし、組合の秩序をみだしたものであるから、規約五一条一項三号に該当すると主張している。

しかし、前述の通り、原告に対し、前記選挙活動に関する全電通の決定を守るように強制することはできないのであって、原告が、その政治的自由の立場から、前記2に認定の如き行為をすることは当然許さるべきであるから、原告の右行為により、これと反対の立場にある全電通の前記各決定に基づく選挙活動に影響があったとしても、それは、政治的自由の原則からいって、全電通において受忍すべきことというべきである。また、原告の前記2に認定の行為により、全電通の組合員の間に著しい混乱をもたらしたとの原告の主張に副う《証拠省略》はたやすく信用できず、他に右事実を認め得る証拠はない。

従って、原告の前記2に認定の行為をとらえて、これを全電通規約五一条一項三号に該当するものとして、統制処分の対象とすることはできないものというべきである。

(二)  次に、原告が、被告主張の如く、全電通主催の集会であるが如く装って生野会館の使用申込をしたことはなく、また、被告主張の後援会ニュースを全電通の一般組合員に多数配布したことのないことは、前記3に認定した通りである。そして、原告が前記3に認定の如く生野会館の使用申込をし、また、被告主張の後援会ニュースをその後援会員に配布することは、その政治的自由から当然許されるべきことであるし、また、原告の右行為自体に照らし、これによって全電通の組合活動としての参議院議員選挙活動が著しく妨害され、その組合員間に混乱が生じたとも認め難いから(《証拠判断省略》)、原告の右行為をとらえて、全電通規約五一条一項一号及び三号に該当するとして、統制処分の対象とすることもできないものというべきである。

(三)  次に、被告は、原告が前記2に認定のビラ、後援会ニュース、パンフレット等を配布したことについて、中井分会長がこれをやめるよう原告に説得したにも拘らず、原告はこれに反抗したうえ、組織内での解決の努力を怠ったばかりでなく、却って中井分会長の説得行為を暴力行為によって思想信条の自由を侵したものであるとして事実を歪曲した主張をしたとの趣旨の主張をしている。しかしながら、原告がビラ、後援会ニュース、パンフレットを配布したこと等に端を発した原告と中井分会長とのやりとりは、前記4に認定した通りであって、右事実関係からすれば、その際の中井分会長の行為が、全電通の前記各決定に従わない原告に対するいわゆる適法な説得行為としての範囲のものであるかどうか疑わしいのであって、原告が中井分会長の説得行為に反抗したうえ、組織内の解決の努力を怠ったとはいい難いし、また、中井分会長の行動をとらえて、これを暴力行為によって原告の思想信条を侵したものであるとの旨事実を歪曲した主張をしたともいい難いのである。

そして、原告が、被告主張の如く、前記4に認定の如き原告と中井分会長とのやりとりを日本共産党大阪府委員会に通報し、また、右に関し大阪民主新報記載の取材に応じたとしても、前記4に認定の事実及び前記6の(一)に述べたところからすれば、そのこと自体は、全電通規約五一条一項一号ないし三号に該当するものではないというべきである。なおまた、原告がその後前記4の(三)に認定の行為をしたことも、右と同様の理由により、全電通規約五一条一項一号ないし三号には該当しないものというべきである。

(四)  次に、被告は、前記四の4の(四)ないし(六)の事実等から、原告は、日本共産党大阪府委員会による被告に対する執拗な攻撃及び不当な介入、並びに司直による介入を招来する原因を作り出して、被告の正当な組合活動を妨げると同時に、被告の自治に積極的に介入して、組織破壊の挙に出たから、右は、全電通規約五一条一項一号ないし三号に該当するとの主張をしている。

しかしながら、被告支部生野分会が日本共産党の大阪市会議員外二名から前記4の(四)に認定の如き抗議を受け、さらに日本共産党大阪府委員会が昭和四六年六月一七日付「大阪民主新報」に前記4の(五)に認定の如き記事を掲載してこれを全電通の一般組合員に配布したことについては、原告の意思でこれがなされたとの被告の主張に副う《証拠省略》はたやすく信用できず、他に右事実を認め得る的確な証拠はない。却って、《証拠省略》によれば、右のことについては、原告が事前に、日本共産党(ないしは同大阪府委員会)からその相談を受けたこともなく、全く原告不知の間になされたものであることが認められるし、さらに、前記認定の通り、原告が、ビラ、後援会ニュース、パンフレットを配布したことに端を発し、中井分会長が、原告の胸ぐらないし左えりを掴んだり、原告の思想信条の自由を認めないと受けとられるような発言をしたことがある等前記認定の各事情に照らして考えると、右市会議員らの抗議がなされたことや、「大阪民主新報」に前記記事が掲載され、これが配布されたことについて、原告に全電通規約五一条一項一号ないし三号に該当する事由があるものとは到底認め難い。

また、前記4の(六)に認定の如く、所轄警察署の警察官が被告支部の生野分会を訪れ、前述の事情聴取等をしたことについても、原告が中井分会長の行為について告訴をしたようなことを認め得る証拠はないのみならず、現実に中井分会長が前記認定の如き行為をしたことのある以上、前記4の(六)に認定の事実をもって、原告に全電通規約五一条一項一号ないし三号に該当する事由があるとは到底認め難い。

7  してみれば、前記2ないし4に認定の原告の行為は、その個々の行為については勿論、その全部を総合しても、全電通規約五一条一項一号ないし三号による統制処分の対象にはならないものというべきである。そして、他に原告が本件統制処分の対象となる行為をしたことを認め得る証拠はないから、本件統制処分は、結局その処分理由を欠き、無効というべきである。

五  名誉毀損について

1(一)  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告は、昭和四六年七月二四日付「全電通大阪ひがし速報」(機関紙)を発行して、その頃これを一般組合員に配布したこと、右速報には、「参議院選挙の総括」「その評価と問題点」と題して、「生野分会における足原君(原告のこと)の行動は、組合内部の問題を第三者に売り渡す行為であり、組合民主主義の立場から許されることではない。」「組織決定に反する行為を正当化しようとするものである。」「生野分会長の行動は、組織が団体を維持する為の最低の行動であり、暴力だとか、思想、信条を認めないものであり、憲法上の問題であるとかいうことは、全電通に対する不当ないいがかりである。」と記載しているところ、右記事は、原告が、組合内部の問題を第三者に売り渡し、組合民主主義に反する不当な行為をし、組合の決定に不当に従わないとの事実を摘示して原告を非難したものであって、原告の名誉を毀損するものであること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  次に、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告は、昭和四六年一〇月一六日付「全電通大阪東にゅうす」(機関紙)を発行し、その頃これを一般組合員に配布したこと、右大阪東にゅうすには、「生野分会足原英晴君を組織統制処分(権利停止)に」「許せぬ組織決定違反」「支部委員会決定の自己批判拒否」などの見出しを付し、「原告は、全電通の決定に違反し」「組合内部での問題を第三者に売り渡した。」との記事が記載されているところ、右記事は、原告が組合員としてなすべからざる行為をしたことを摘示して、これを非難すると共に、本件統制処分は正当であることを摘示したものであって、原告の名誉を毀損するものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  次に、《証拠省略》によれば、被告は、昭和四六年一一月五日付「全電通大阪東にゅうす」(機関紙)を発行し、その頃これを一般組合員に配布したこと、右大阪東にゅうすには、「生野足原問題無期限権利停止に」「許されぬ組織原則違反」との表題の下に、「足原君は、六月二七日施行の参議員選挙において、組織が総力を上げて闘っている最中、日本共産党全国区須藤五郎、地方区三谷秀治の後援会パンフを組織内において配布し、後援会への呼びかけと得票活動を行なったものであり、分会長の忠言を逆に暴力行為であるとして、大阪民主新報(六月一七日付)を使って全電通を誹謗し、全電通の組織方針に対し、共産党よりの不当な介入をさせ、職場に混乱を与えた。」との記載や、その他原告が組合員として許されない行為をしたから、本件統制処分が正当であるとのことを窺わせる記載があるところ、右記事は、原告が、全電通の組織原則違反の行為をし、全電通を誹謗中傷し、職場に混乱を与える行為をしたなど、原告が組合員としてなすべからさる行為をしたとしてこれを非難すると共に、本件統制処分が正当なものであることを摘示したもので、原告の名誉を毀損するものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  《証拠省略》によれば、被告は、昭和四八年一一月一三日付「全電通大阪東にゅうす」(機関紙)を発行し、その頃これを一般組合員に配布したこと、右にゅうすには、「足原らによって共産党候補者のための得票活動が、組織・計画的に行われ、分会長が注意すると、逆に問題を拡大し、全電通組織決定の執行の妨害と、目的意識的な組識攪乱をはかってきた(事件)。」との記載があるところ、右記載も、原告が全電通の組織攪乱をはかり、組合員として許されない行為をしたとの事実を摘示してこれを非難するものであって、原告の名誉を毀損するものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(五)  《証拠省略》によれば、被告は、昭和四九年一〇月頃、第七回定期支部大会決定集(機関紙)を発行してこれを一般組合員に配布したこと、右決定集には、「足原問題」との表題の下に、「(原告は)、昭和四六年六月に行われた第六回参議院議員選挙における日本共産党の候補者の支持活動を職場内で行なったことに対し、全電通の組織決定に反するという分会長の忠告を受け入れず、あまつさえ、暴力をふるったと日本共産党に訴え、その機関紙をつかって組織攻撃を加えるなど、組織人としてあるまじき行為を展開してきた。」「執拗にくりかえされる足原の行為は、組合員としての権利行使でなく、日本共産党の方針の代弁者となり下がり組織に混乱をもちこむための背信行為であるから、本件統制処分にした。」旨の記載があるところ、右記載も、原告が組合員として許されない行為をしたとの事実を摘示してこれを非難すると共に、本件統制処分は正当なものであることを摘示したものであって、原告の名誉を毀損するものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(六)  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告は、昭和五四年一二月一三日付「全電通大阪ひがしニュース」(機関紙)を発行して、その頃これを一般組合員に配布したこと、右ニュースには、原告は、「①機関決定違反の行為、②事実を歪曲しての誇大宣伝、③組織内の問題を組織内で討論し解決していく方法をとらず、第三者に持ち出し宣伝材料による卑劣なやり方」をした等の事実を記載しているところ、右記事も、原告が組合員としてなすべからざる行為をしたとの事実を摘示して原告を非難すると共に、本件統制処分は正当なものであることを摘示したものであって、原告の名誉を毀損するものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  なお、原告は、以上の外にも、被告は、昭和四六年六月二四日付「全電通大阪ひがし速報」、昭和四九年八月一五日付「全電通近畿」昭和五二年八月一五日付及び同五三年六月二五日付「全電通近畿」昭和五三年八月発行の「全電通大阪東」その他にも、原告の名誉を毀損する記事を掲載して原告の名誉を毀損したと主張している。

しかしながら、《証拠省略》によれば、昭和四六年六月二四日付「全電通大阪ひがし速報」には、主として日本共産党を非難する記事が掲載され、原告個人が違法不当な行為をしたとしてこれを非難する記事は掲載されていないこと、また、昭和四九年八月一五日付「全電通近畿」昭和五二年八月一五日付及び同五三年六月二五日付「全電通近畿」昭和五三年八月発行の「全電通大阪東」には、いずれも原告が不当な行為をしたとしてこれを非難し、その名誉を毀損するような記事は何ら記載されていないこと、以上の事実が認められるし、その他原告主張の各機関紙に、原告主張の如く原告の名誉を毀損する記事が記載されていることは認められないから、右の点に関する原告の主張は失当である。

3  ところで、被告は、機関紙等文書への掲載が名誉毀損を構成するためには、その報道または論評が真実に反し、その文書の発行者または筆者が、それを知りまたは知りうべき場合に、敢えてそれを掲載したとか、或いは、その報道または論評が、人身攻撃的ないし侮辱的な場合であることを要するとし、種々の事由をあげて、前記1の(一)ないし(六)に記載の「全電通大阪ひがし速報」等の機関紙は、いずれも単なる事実の報道または公示にすぎず、その方法も通常のものであるから、名誉毀損となるものではないと主張している。しかし、単なる事実の報道または公示であっても、その内容が、人の名誉を毀損するものであるときには、名誉毀損による権利侵害行為になるものと解すべきであるから、右被告の主張は失当である。

もっとも、一般に、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合でも、それが公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たときは、右摘示された事実が真実であるときには、違法性が阻却され、不法行為は成立しないものと解すべきである。ところで、本件においては、前記1の(一)ないし(六)に記載の「全電通大阪ひがし速報」等の機関紙の記事で、原告の行為が不当であるとして指摘され非難された行為のうち、前記四の2ないし4に認定の行為については、前述の通り、その政治的自由等から原告に許された行為であって、これを全電通の決定に反する不当違法な行為であるということはできないし、また、その余の行為(例えば、組織内部の問題を第三者に売ったとか、共産党の機関紙を使って組織攻撃を加えたというような行為)については、前記四において述べた通り、原告においてこれを行なったことが認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告の前記名誉毀損行為は、違法たるを免がれないというべきである。

なお、被告は、原告は本件統制処分が違法であると主張して、却って、全電通に対する逆の不当宣伝を繰り返したと主張しているところ、仮に原告が右被告主張の不当宣伝を繰り返したとしても、それが原告の被告に対する不法行為になる場合のあることは格別、そのことによって、被告の前記各行為が名誉毀損になり、かつ、それが違法であるとの前記認定を妨げるものではない。

4  次に、被告が、前記1の(一)ないし(六)に認定の原告の名誉を毀損する記事の内容そのものを知りながら、前記「全電通大阪ひがし速報」等の機関紙を発行したことは、弁論の全趣旨から明らかであるから、被告が前記原告の名誉を毀損するにつき、故意があったものというべきである。

5  してみれば、被告が、前記1の(一)ないし(六)に認定の如く、原告の名誉を毀損する記事を掲載した「全電通大阪ひがしにゅうす」等の機関紙を発行して、これを一般の組合員に配布したことは、原告に対する名誉毀損による不法行為を構成するものというべきである。

六  謝罪文の交付及び謝罪広告請求について

民法七二三条が、名誉を毀損された被害者の救済処分として、損害賠償のほかに、それに代えまたはそれとともに、原状回復処分を命じうることを規定している趣旨は、その処分により、加害者に対して制裁を加えたり、また、加害者に謝罪等をさせることにより、被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく、金銭による損害賠償のみでは填補されえない、毀損された被害者の人格的価値に対する社会的、客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべきである(最高裁判所昭和四五年一二月一八日判決・民集二四巻一三号二一五一頁参照)。従って、右民法七二三条に基づく謝罪広告等は、名誉毀損によって生じた損害の填補の一環として、それを命ずることが必要でかつ効果的であり、しかも、判決によって強制することが適当であると認められる場合に限り、これを命ずることができるのであって、毀損された名誉が既に回復されている場合や名誉毀損による被害が金銭賠償によって十分償われる場合とか、その他当該名誉毀損行為の反社会性の程度が軽微で、これによる被害も小さい場合等には、謝罪広告等を命ずることはできないものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、(1)被告は、権利停止の本件統制処分をしてから約二年後の昭和四八年一一月一六日に、原告に対し、組合員としての権利回復の措置をとったことは前記の如く当事者間に争いがなく、右権利回復以来現在まで約八年近くが経過している。(2)そして、《証拠省略》によれば、原告や「足原君を守る会」は、これまでに原告が前記四の2ないし4に認定の如き行為をしたことについて、これは正当な行為であるということや、本件統制処分は違法無効であるということなどを記載した公開質問状や、ビラ、チラシ等を多数作成して、これを全電通の一般組合員に配布していることが認められる。(3)さらに、前記四の2ないし4、五の1に各認定の事実に、《証拠省略》によれば、前記五の1(一)ないし(六)に認定の被告の名誉毀損行為のうち、前記四の2ないし4に認定の原告の行為については、原告とその政治的立場を異にする被告が、原告の全電通の決定に反する行為を、その政治的思想的立場から許されないものとして、これを非難し、本件統制処分は有効であるとしたものであり、また、原告が、前記組合内部の問題を第三者に売り、共産党の機関紙を使って組織的攻撃を加えた等の点に関する記事は、前述の通り、日本共産党の若林市議会議員らが被告支部の生野分会を訪れて抗議し、日本共産党大阪府委員会発行の昭和四六年六月一七日付「大阪民主新報」が前述の如き中井分会長非難の記事を掲載したことに基因するものであって、これらの点からすれば、被告の前記名誉毀損行為は、実質的にはそれ程悪質なものとはいえず、反社会性は極めて軽微であること、そして、被告の前記名誉毀損行為は、一般社会の人に公表してなされたものでなく、主に全電通の組合員に公表してなされたものであること、しかも、右名誉毀損行為は、主に、原告が、人間として著しい破廉恥な行為をしたとしてその名誉を毀損したのではなく、その政治的思想的立場の相異から、全電通の組合員として許されない行為をしたとしてその名誉を毀損したものであって、その名誉毀損の程度も比較的軽微であり、金銭賠償によって十分償われるものであること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。しかして、以上認定の如く、被告の前記名誉毀損行為の反社会性は軽微であり、原告の右名誉毀損による被害も比較的小さく、金銭賠償によって十分償われること、その他前記認定の諸事情を総合して考えると、原告の毀損された名誉の回復措置として、金銭賠償を命ずることは格別、これに代えて、被告に対し、原告主張の如き謝罪文の交付や謝罪広告をさせることは、相当ではないというべきである。

七  よって、被告に対し、別紙記載の謝罪文の交付及び謝罪広告を求める原告の本訴請求は、すべて理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 草深重明 小泉博嗣)

〈以下省略〉

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